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第1回 弱者の戦略

執筆:手塚 修一(てつか しゅういち) 公開:



 

今回紹介する本は『弱者の戦略』(新潮選書)です。
“戦略“というとビジネス書を連想しますが、キャッチコピーの「弱くても(こうして)生きてます-生物界のおきてに学べ!」とあるように、内容は立派な生物学です。

食物連鎖の底辺あたりで健気にかんばっている雑草や昆虫、小動物の生き方を紹介する本ですが、企業経営、特に中小企業にとってためになるヒントが満載です。
著者は雑草生態学の専門家、稲垣栄洋博士。

ところで、生き物にとっての“強さ”(strength)、“弱さ”(weakness)とはいったい何でしょうか。
この疑問に答えてくれるのが第1章。タカが10羽のスズメを食べ、スズメが10匹のカマキリを食べ、カマキリが10匹のバッタを食べているとすると、1羽のタカは10×10×10=1000匹のバッタがいなければ生きていけません。
つまり、ピラミッドの頂点に立つタカも1000匹のバッタに依存するか弱い生き物ということになります。

結論は単純明快。生物にとっての“強さ”とは、生き残ること。

続く各章では、この生き残りのための弱者の生存戦略がいろいろな視点から明らかにされます。
たとえば第2章は、「群れる」「逃げる」「隠れる」「ずらす」をキーワードに、食われる者の食われないための生き残り戦略の紹介。
たとえばイワシが群れる、シマウマが群れる。群れることは、弱い生き物たちの基本戦略の一つです。
シリコンバレー、東京太田区のものづくりネットワーク、京都試作ネットなども中小企業の「群れ」とみることができます。

群れることのメリットについて、著者は「異能集団としてのチームワーク」を指摘しています。
弱いものにとっては、天敵から巧みに「隠れる」ことも生き残るための重要な戦略です。
木の枝に化けたナナフシの「擬態」、ネズミやウサギなどの「ダウンサイジング」も上手に隠れるための戦術です。
隠れることの合理性について、『グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業』の著者ハーマン・サイモンは、「隠れたチャンピオンの多くはバリューチェーンの“後背地”で活動している」と述べていますが、生物学と経営学の知見がみごとに一致しています。

第3章「すべての生き物は勝者である」は、「ずらす」戦略バリエーションとしてニッチ戦略を取り上げていますが、グローバル・ニッチトップ企業をめざす中小企業の経営者にとって必読の章です。たとえば「オンリー1か、ナンバー1」という問いに著者は次のように答えます。

「すべての生物は、どんなに小さくともナンバー1になれるオンリー1の場所を持っている」と。「オンリー1という個性を最大限に活かしてナンバー1になること」と。つまり、オンリー1とナンバー1は二律背反ではなく、ともに影響し合う二律双生として考えられています。
この二律双生を実現するポジションがニッチ(Niche)ですが、ナンバー1になれるオンリー1のポジションを探し求め、たえずニッチをずらしていく「ニッチシフト」こそ、弱い生物が生き残るためにも、中小企業がグローバル・ニッチトップ企業になるためにも重要な生存戦略になります。


『弱者の戦略』は、「弱者必勝の条件」(第4章)、「R(Ruderal=荒れ地性雑草)というオルタナティブ戦略」(第5章)、「“負けるが勝ち”の負け犬戦略」(第6章)、「強者の力を利用する」(第8章)と、志ある中小企業の経営者にとって刺激的な内容が盛り沢山です。
このコラムでそれぞれの章の内容を紹介するには紙面が限られています。
興味を持たれた方は、新刊本(1,188円、アマゾン中古本760円、kindle版880円)を読んでください。
一気に、楽しく読めて、目から何枚もウロコが落ちること、請け合いです。



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