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常識2.企業経営においては、全てをオープンにすることはできない!

執筆:藤井 正隆(ふじい まさたか) 公開:



 商品を販売する際の粗利益をお客様にオープンに話すことは、一般的には多くはありません。また社内においても、人事評価や社員の給料等は、経営者や管理者はある程度把握していているでしょう。しかし社長から新入社員までの全社員の人事評価や給料を、全て社内Web上にオープンに掲示されているといったこともありません。なぜなら、「知らぬが仏」といった言葉があるように、同じ職場の同僚が自分より評価も給料も高いといった場合、パフォーマンスに明らかな差がない限り、「なぜ俺の方が彼より評価が低いんだ!」といったような感情がわき、職場に不調和音も起きかねないからです。

 一般的に企業経営で行われていることを見てみましょう。
目玉商品でお客様を店舗に誘引し、その他の商品を買っていただくのは、販売の現場では常套手段です。食品スーパー等ではお客様側もそのことをよく理解します。しかし住宅販売において、以前「あこがれのマイホームが1000万円で手に入る」といった広告で集客し、クジ引きで一棟のみ、集まったお客様に通常の数千万円の住宅をセールスすることが行われています。

さらに、最近は、フリーのモノが多くなりました。


1.直接的内部相互補助モデル
  スーパーの試飲・試食、ゲームの体験版 など
2.第三者広告料モデル
  古くは、民法のテレビ・ラジオ局、Google/ Facebook、多くのネットビジネス
3.第三者手数料モデル(エージェント・モデル)
  就職・転職情報サイトなど
4.フリーミアム・モデル(フリー&プレミアム・モデル)
  簡易サービス無料~高性能サービス有料化
  ニコニコ動画他、多くのネットサービス

 一般的に言われているフリーモデルは上記ですが、他にもあるでしょう。

 そうした中、広島に本社を置く会社でお客様にも社員にも企業経営全体を丸見えにしてしまう広島に本社を置くメガネチェーンがあります。メガネ21です。
簡単にメガネ業界の現状を確認します。メガネは、日本では福井県鯖江で90%以上が生産されていますが、最近は他の国の低コスト地域での生産も多くなりました。日常品ではないために、非常に高い粗利が設定されています。そして、前述のスーパーの特売品や、紹介した住宅販売のように、9割引で集客して、実際は、9割引の商品がわずかしかないといった商売の仕方をしてきました。最近は、日常のファッションのように、低価格均一の店も登場しています。

 

 

お客様に丸見えにして、信頼を築き常顧客になってもらう

 こうしたメガネ業界において、メガネ21は一部商品9割引の店に対抗して、全商品4割引にしています。
 メガネ21では、自分の家族や親戚に接するように親身になって、お似合いでリーズナブルなものを探します。そして、結果として、たくさんのメガネを買ってくれる「上顧客」ではなく、いつも来てくれて、店のことも気遣ってくれる「常顧客」を大切にしています。
 常顧客になっていただくと、なぜいいかと言えば、効率がいいからです。チラシなどの販促の費用が掛かりません。また、全ての商品が4割引といったように、嘘偽り誤魔化し無しの丸見えであるために、お客様は、「高いものを買わされるのではないか?」といった不安を感じることなく、安心して買い物ができるのです。

 

 

会社のサイフも個人の給料や評価も丸見えにして効率化を図る

 メガネ21では、会社の財務状況をサイト上にアップしています。一般の会社では考えられません。さらに、社長の報酬もホームページに掲載しています。
なぜ、全てを丸見えにしたのかといえば、起業した当初、まだ、信用のない会社が、お客様から支持されるには、前述のように、全品4割引にすることでした。ところが、4割引では、給料を安く抑えない限り赤字になってしまいます。そのため、少ない給料しか払えない社員に納得いただくためには、会社のサイフを開けっぴろげにして、「本当にウチは、お金がないんだ!」と理解していただく必要があったのです。
 しかし、必要に迫られて実施した会社の財務状況の丸見えは、大きな効用を生み出します。通常、経営者が、従業員に対して、「経営者意識、コスト意識が足らない」と言いますが、立場が違うため当たり前のことです。しかし、丸見えにすると、「無駄を省こう!」「給料が安くても当然」と考えるようになります。
 もちろん、お金が無いときだけ、サイフを開けっぴろげにして、儲かっている時に、サイフの中を見せないのでは、無いときに発する言葉が、説得力を持ちません。儲かってお金があるときは、できるだけボーナスなどで配り、「儲かれば、自分達の所得も高くなるんだ!」と実感させることで、困ったときにも我慢をできるのです。
 次に、評価や給料についても丸見えにしています。この点も、職務が違う他、厳密に評価をすることが難しい面を考えると大丈夫かと心配になりますが、もし、ある社員に対する評価が甘すぎる、あるいは、辛すぎると思った社員は、自由に意見を社内Web上で発信できます。そして、他の社員も同意した場合は、直ぐに訂正するなど、非常に柔軟な対応をしているのです。

 競争が激しくなると、単純な粗利を中心としたビジネスは、通用しなくなります。そのために、前述のとおり、利益を出すものと利益を出さないもの、さらに、いくつか紹介したとおり、無料(フリー)のものと、利益を出すものを分けたり、無料で提供する人と、お金を取る人を分けたりといったことが行われます。

 また、携帯電話料金が複雑なのは、通信の自由化が行われた際、固定の長距離電話に第2電電他、複数が参入した際、結局、単純な価格競争になり、NTTをはじめ参入した各社も利益を落とすことになりました。そのために、携帯電話会社は、料金を複雑化させて単純比較されないようにしたのです。

 このように、収益モデルが複雑化する中、繰り返しになりますが、メガネ21は、こうした業界の状況を逆手にとって、全て4割引なシンプルなものにし、しかも粗利まで丸見えにしてしまいました。社長以下全員の給料も丸見えにしてしまうといった常識では考えられないマネジメントで成長したのです。
メガネ21の丸見え経営は、海外からも注目され、日本でもかなり売れた『コアコンピタンス経営』の著者、ロンドン大学のゲイリー・ハメル教授などが、海外からも視察研究に来るなど注目されています。まさに、経営は様々であると改めて思います。

参考:ウサギとカメの経営法則 藤井 正隆 著(経済界)
プロフィット・ゾーン経営戦略 エイドリアン・J. スライウォツキー 他 著 
(ダイヤモンド社)
課金ポイントを変える 利益モデルの方程式 川上昌直 著 かんき出版


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