第3回 大きな仕事は一人では成し遂げられない

執筆:伊藤 弘子(いとう ひろこ) 公開:



 仕事が忙しくて人材育成をする余裕がないのではなく、人材育成を十分に行っていないために、いつまでもマネジャーだけが忙しく仕事がうまくまわらない状態を作り出しているということが見られます。となると、やはり人材育成に力を注ぐことは重要ということです。

とはいっても、成果の上がる人材育成が必要です。そのために、大切なポイントとはなんでしょうか。

これまでに、さまざまなマネジャー教育を行ってきて、一定の成果を上げるマネジャーとそうでもないマネジャーを見てきました。その違いは幾つかポイントがあります。

まず第一にあげられる点は、“仕事は一人ではうまくいかない”という発想をどれだけマネジャー自身が持っているかです。自分一人で頑張ってやれることは限られています。部下のたくさんの能力や持ち味を生かせば、何倍もの仕事が行えます。こういう発想に立って、部下と接しているかが肝心です。

つまり、そこには、部下に対する信頼や、部下とともにより大きな成果を上げようというパートナーシップの考え方が求められます。自分一人で仕事をまわしていると思えば、部下をゆっくりと見ている余裕がなくなります。特に自分の能力が人よりもあると思っているマネジャーほど、その傾向に陥りがちです。そして、そういうマネジャーに共通する口癖は、いつも忙しいです。

個人プレイヤーとして優秀なマネジャーほど、自分一人でなんでもできると考えがちです。たしかに、主要な課題や問題解決の力をとってみれば、部下よりも勝っているのでしょう。ですが、一つ一つの課題においては、部下は、マネジャーが感じているよりも、より多くのことを成し遂げることができます。ですが、一人でまわしているという感覚のマネジャーの下では、その力を発揮することはありません。

ゆっくりと時間をとって部下一人ひとりをよく見ていますか。今現在、マネジャー自身が把握していない部下の能力や特性にどれほど氣づいていますか。

また、信頼を寄せていますか。信頼し、任せていますか。

マネジャーが部下を信頼していることを伝えていくことは重要です。これは、言葉だけのことを言っているのではありません。言葉では、「あなたを信頼しているよ」と言っておきながら、次の瞬間に細かく報告を求めるというのでは、本心では信頼していないとメッセージを送っているようなものです。“人は常に期待どおりの行動をする”という話を聞いたことがあるでしょう。ピグマリオン効果と呼ばれるものです。事実、ある組織で、部下を信頼して任せていることで、部下がほとんどの判断業務を行えるようにまで成長し、マネジャーは余裕をもって全体を見ることができ、組織を拡大しているというケースがありました。その一方で、部下を信頼できず、常に一人で頑張り続けた結果、自分自身の体調が悪くなり、部下は成長しないで苦労し続けているというケースがありました。

どちらが好ましいかは、言うまでもないことです。

部下を信頼して任せていますか。今、あなたが考えている以上の力が部下にあったとして、その能力を十分に引き出せていますか。そのためには、当然ながら部下との会話が重要であることは言うまでもありません。部下が今何を考えていて、仕事のパフォーマンスを上げるために、どんなことが自分にできると考えているか、尋ねたことがありますか。または、どんなことをやってもらいたいと心を割って話す時間を確保していますか。最初は、躊躇されたとしても、期待に到達するまでのステップを示して、順にやっていけるように示したことで、予想以上の動きをしてくれるようになったという実例もあります。

次回は、部下の能力を引き出すコミュニケーションについて取り上げます。



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