第4回 部下の能力を引き出すコミュニケーション

執筆:伊藤 弘子(いとう ひろこ) 公開:



 前回は、どれほど優秀なマネジャーであっても、一人でできることには限界があることをお伝えしました。特に、現場第一線のプレイヤーとして優秀であった人ほど、『全部自分がやった方が早い』という幻想に陥りがちです。この幻想に陥ったままでは、いつまでたっても部下が成長することがなく、また部下が能力を発揮する機会を奪ってしまうことになります。

マネジャーは、自分自身が沢山の仕事をするよりも、部下と協働してより多くの仕事を成し遂げることが重要です。

そのことを頭では分かっていても、日常的なコミュニケーションで考えると、次のようなことを行っていないでしょうか。

¨  部下の話を聞くよりも、自分の話をしてしまう

¨  部下の行動や成長を見るよりも、自分自身もしくは他のメンバーとの比較をする

¨  「なぜ」「どうして」の言葉が先に出る

¨  褒めるよりも注意することが多い

 

これらは無意識のうちに行っていることが多く、おそらくマネジャー自身も氣づいていないかもしれません。そのため、心を割って正直に話してくれる部下がまわりにいれば、その部下に自分自身が上記のような傾向にないかを聞いてみるといいでしょう。

 

部下の話をさらによく聞く

大半の部下は、マネジャーに自分の話を聞いてもらいたいものです。仕事上の悩みだったり、お客さまとの課題であったり、職場の人間関係など、相談したいことは山積みだったりします。ところが、マネジャーと話をする機会があっても、マネジャーが自分の話ばかりしていると、部下は話しをするタイミングがもてず、結局、言いたいことがあっても、自分の中で留めておくことになります。そうしたことが何度か続けば、そのマネジャーには相談しづらいという認識が出来あがってしまい、言いたいことをどんどんと蓄積していくことになります。

特に、お客さまとの関係や、仕事上の問題がなく、仕事が順調にいっているときはいいですが、順調にいかなくなってくると、これまでに蓄積されたものが不信感となり、上司と部下との間に溝が出来てしまうことがあります。マネジャーからすれば、十分に部下の話を聞いていると思っていても、大抵は、部下からするとほとんど聞いてもらえていないと感じていることが多いものです。自分の頃はこうだった、あぁだった、と自慢する上司に部下が心を開いたりしないことは、あなた自身の体験からも明らかでしょう。過去に目を向けずに、今、部下が何に悩み、何を解消したいと感じているか、そのことに焦点をあてたコミュニケーションをしていくことで、部下との関係がより一層密になり、信頼されることで、部下が自分の持てる力を発揮していくことが増えていきます。

 

部下一人一人の成長をよくみる

 

 これもよくありがちなことですが、部下が何人もいると、ついいろんな部下を比較して考えがちです。A君に比べてB君は仕事が早い(遅い)とか、Cさんに比べてDさんの方が素直だ、とか。こうした比較を自分の中だけで行ってしまうのは仕方ないことでしょうが、本人の前で指摘したり、他の部下に対してそうした話をすることは避けた方がいいでしょう。結局、どこかで、そうした話は本人の耳に入ったりします。または、本人の耳に入らなくても、「あぁ、この上司は、人をこうやって比較で見るだけだ」と、部下から見られ、常に評価の対象であって、一緒に頑張るパートナーではない、というメッセージを受けとることになります。部下は一人一人成長のスピードも違えば、持ち味も異なります。その持ち味を見抜いて活かすことが大切なのですが、比較をしている限りは、持ち味を発見することも、伸ばすことも難しくなります。ましてや、自分の若い頃と比べたりしないことは大切です。たいてい、マネジャーの自慢で終わってしまい、部下のモチベーションを引き出すことには全く役に立たないものです。よく見ていると、部下の変化が見えてくるものです。そのタイミングで、すかさずに褒めていくことで、部下は、自分のことをちゃんと見てもらえている、自分のことを実はよくわかってくれていた、と安心感や信頼感を寄せることになります。

すぐに一人立ちできない部下にずっと寄り添って対応していくうちに、徐々に部下が出来る範囲が広がり、やがて一人立ちしても大丈夫になったので、一人で任せて、今は他の人を指導するまでになった、というケースもあります。それには、マネジャーの忍耐と部下への信頼がなければできないことです。

 

次号に続く



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