第5回 上手に褒める

執筆:伊藤 弘子(いとう ひろこ) 公開:



 前回、部下とのコミュニケーションについて紹介をしました。部下とのコミュニケーションの中でも、特に大切になってくるのが上手に褒めることです。

 一般的に、日本人の自己肯定感は、他国と比べて低い傾向にあります。その理由として考えられていることが、あまり褒めない文化に起因していると言われています。たしかに、私自身の体験を思い起こしてみても、叱られた記憶はたくさんあっても、褒められた記憶は少ないと思います。

 なかには、頑張って褒めようとしてくれていると感じる上司もいました。特に、コンサルタント会社で働いていたので、普通の会社よりは褒めることを意識している上司が多かったかもしれません。そういう点では恵まれていたと思います。

 一般的には、褒めることが上手ではないマネジャーの方が多いように感じます。管理職者の研修の中で、たまにお互いを褒め合うという実習を行ったりします。そういうときに、決まって居心地悪そうにしている方を見かけます。これまでの他の実習よりも一番これがきつかったという声を聴いたりします。自分自身が褒められることに抵抗があると、人を褒めることも積極的にしない傾向になってしまいます。そのため、管理職者は、自分自身が褒められることを抵抗なく受け入れることが大切です。いつも自分に駄目だしをしていると、無意識のうちに、部下に対しても褒めるより駄目出しが多くなります。

さて、上手に褒めるという場合には、いくつかポイントがあります。

 

相手の言動のどこが良かったかを具体的に褒める

 ただ、「すごいですね」だけでは褒められた実感が部下には伝わりません。何がどのようにすごいと思ったのかを具体的に褒めることが大切です。

「先ほどのお客様とのやりとりを見ていましたが、本当に目の前のお客様の心の奥までしっかりと推察して、それを言葉に出して提案していた点がとってもいいと思いました。こういうきめ細やかな対応が私たちのファンを増やしていくと感謝しています」

このように、相手に伝わるように褒めます。

 

それがどんな風に賞賛に値することなのかを相手がわかるように褒める

 一般的に、賞賛は褒められる本人にとっては当たり前のことと思ってしまっていることがあります。そうなると、褒められても取り立てて当たり前のことをしただけなので、なぜここまで褒めるのかよくわからない、と感じてしまいます。さらに、こんな簡単なことを褒めるなんて、私のことを低いレベルで見ているのだろうか、と勘繰ってしまう部下も出てきます。そのため、賞賛の内容が、いかに特別なことであったり、大切なことなのかを丁寧に伝えることが重要です。そして、褒められた部下が、自分の内側で「あぁ、これはすごいことだったんだ」と理解できるようにしていくことが重要です。

 

見せかけでなく心から褒める

 ただ単に形だけ褒めている管理職もいるように思われます。そういう場合には、どんな点がいいと思ったんですか、と聞くと答えが返ってこなかったりします。これでは見せかけ的に褒めているだけだと部下が思ってしまっても仕方がありません。そのような儀礼的なやりとりを行うと、部下からの信頼を失うだけです。

 

見返りを期待せずに褒める

 よく小さい子供に対してあることですが、この場をおとなしく過ごしてほしいからという理由で褒めることがあります。このような裏の目的をもって褒めることは大人に対しては通用しません。中にはうわべだけでも褒めてほしいという人もいるでしょうが、感受性の強い人にはそうした小細工は通用しないどころか、かえって関係が悪くなります。純粋に部下に対してすごいなとか、ありがたいなと思ったことを日ごろから口に出すようにしましょう。

 

 ラグビーの日本代表チームを率いて奇跡的な勝利を招いたヘッド・コーチのエディ・ジョーンズ氏は、指導の現場で選手たちを怒ることは避けられないとしつつも、ポジティブなプラスの面を常にみるようにしていたと語っています。

 日本代表の監督に就任したときに、選手たちと一対一の面談を行って、一人一人の強みを聞いているときですら、選手たちは必ずマイナス面から答えていたそうです。こうしたマインドを変えたということです。

 

 そのためにも、上に立つリーダーは徹底的に部下一人一人の強みを見て上手に褒めて伸ばすことが肝心です。



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