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常識6.人事異動で経験する職務は、2~3回

執筆:藤井 正隆(ふじい まさたか) 公開:



学校を卒業して、就職してそれぞれの部署につきます。そして、もし、定年まで勤めたとしたら、最初に配属された職務から、せいぜい2~3回、営業から総務へといった他部署にかわる程度ではないか?と思います。

 

ところが、毎月、全社員の4%を異動させ、1年48%の社員が違う部署に移るといったら、本当?と疑いたくなりますが、実際に行っている会社があります。

1980年代から、大手も含む150にも及ぶ企業が参入を試み、軒並み撤退に追い込まれたペット保険市場において2000年設立。大手の力を借りず、独自路線の茨の道を選び自殺も考えたという苦境を乗り越えたのは、小森伸昭代表取締役会長が創業した会社アニコムホールディングス(以下アニコム)です。

 アニコムは、飼い主、獣医師にとって分かり易いシステムを開発し、きめ細かなサービスを徹底することで、全国の約五割をカバーする動物病院と提携し、ペット加入頭数は約38万頭を超えるまでに成長させて東証一部に上場も果たしました。

 

1.現代企業においては、加齢を越える成長が必要

なぜ、毎月4%といったように、頻繁に人事異動を行うのでしょうか?3年程前に、小森会長(当時社長~以下小森さん)にお聞きしました。

小森さんは、成長の定義として、加齢は成長か?それとも単なる成熟化か?と考えました。成熟とは、ワインが年数を経ることで熟成されるようなものなのでしょうか?子供は生まれた時にしゃべれません。やがて、アーとかウーと声を発するようになり、小学校になったら言葉を話すようになります。これは、成長でしょうか?単なる加齢でしょうか?

 

小森さんは、企業で働く人も16世紀の前半は、加齢でも良かったと言います。一人一人が熟練労働者になるために、10年20年と、一つの仕事をして、年を経ることに技術を高めます。そして、町でビジネスをはじめ、次に、父親は、自分の子供に後を継がせて一生を終えました。

 

しかし、現代のように人の協働活動が、地球規模になり、昔の人の成功や失敗を一瞬にして、学ばなくてはならない状況では、一人の人間が、加齢していくといったレベルではなく、加齢を超える成長があって初めて、経営として成り立つ。つまり、自分を超える成長が、現代社会における成長であり、まさに、それは、人と人の間を繋ぐことが重要になるのです。

自分を超える成長をさせるために、どのような取り組みをすればいいのでしょうか。例えば、化学を好きな人が、化学ばかりやっても、なかなか成長できません。自分を超える成長は、自分が嫌いなもの・苦手なものに挑戦する必要があります。そして、自分以外の人の存在との関わりが重要な役割を果たします。

 

2020年東京オリンピックが開催されますが、オリンピック競技では、強い競争相手が多い種目は、記録が生まれやすいといわれます。逆に、強い競争相手がいない種目は、なかなか記録が生まれません。つまり、自分以外の存在がいることが、自分を超える成長をする上でとても重要なのです。

現在の企業組織では、社員に自分を超える成長をする環境を提供する必要があります。

このような考えから、アニコムでは、少しだけ自分を超える成長ができる組織をデザインすることを心掛けているのです。

 

その一つが、毎月全社員の4%の人事異動です。本人に異動の話をすると、「まだ今の仕事をマスターしていない」という応えが返ってきます。しかし、新しい仕事に不安を感じているのが、本当の理由であることも多いそうです。営業は営業だけをしていては、自分の可能性を減らし、居心地はいいかもしれませんが、それ以上の成長や進歩はありません。そのため、人事異動では、最も不向きな、嫌う場所に異動させる試みをします。本質的に成長させるために、営業が得意であれば、システムへ、そして、システムが分かる営業、経理が分かる営業になって、再び営業を頑張ることになります。

 

社員は、人事異動する度に、毎回視野が拡がります。最初は、コールセンターしか知らない人も、システムを理解します。次は、経理・人事を理解します。一〇回から二〇回異動すれば、会社全体が分かり、全員が代表者になりうるパワーを持つことができるのです。そして、最初は社員からの抵抗があったとしても、最終的には、自分を超える成長を社員全員がするために、強い組織になっていくのです。

 

2.全ての部署を経験することで、経営人財を育成する

さらに、小森さん歴史も踏まえ、頻繁に人事異動を行う理由を教えてくれました。

一六世紀の産業革命の前は、農耕民族も狩猟民族も、基本的に壁はありませんでした。ある時、工業機械が発明され、工場に壁をつくりました。産業革命以前は、人は子供を背負って狩猟をし、田植えをしていました。そのため、子供は親の仕事を肌身で覚え、生まれ育ちながらにして、社会人になれる才能を持つことができたのです。しかし、産業革命によって、生産効率は上がりましたが、労働者の子供は、社会生産活動から隔離されました。親だけが、工場で機械に向かって働きました。そのため、子供は、組織のダイナミズム、マネジメント、高速機械をどのように扱うかといったところを知る機会を無くなってしまったのです。一方、工場長の息子だけは、工場の中で遊んでいました。なぜ、あの人が、右手が無くなったのか?工場が火事のときどのように対処していたのか?を眼の当たりし育ち、超エリートになったのです。しかし、労働者の子供達は、二十歳になるまで、高速機械を見たことがありません。工場長の子供は、なぜ、微分や統計や積分が必要かをよく分かりますが、労働者の子供達は、その意味が分からないのです。

 

 権力者が、権力を維持し続けるための方法は、何も教えないことです。教えなければ、トップに立ち向かうだけの知識がないので地位は安泰です。しかし、それでは、トップも社員も成長できません。

このように、数世紀の間は、トップに都合のいい組織であり、組織の構成員全員にとっては望ましい組織設計ではありませんでした。つまり、昔の組織は、特権階級のための組織だったのです。しかし、近年、全国民が全権をもってダイバシティを重要視する方が、地球にもいいということが分かってきたのです。

 

組織の在り方は、透明で明確、意識決定のメカニズムが分かり、たとえ一社員であってもトップに置き換わることができる組織が理想です。小森さんは、労働者側に生まれたので、親の職場を見ていません。そのために、今までとは違う組織を創るといった意識から全員が見えて、組織の全てが分かる仕組みを取り入れたのです。

 

アニコムでは、子供をオフィスに連れて来ることが許されています。実際、子供を連れてくる日が年に何回かあるといいます。新入社員でも中堅社員でも、そして、社員の子供であっても、会社で何が起こっているか、肌身で感じさせる、そして、全てをオープンにすることが、学習だと考え実践しているのです。

 

以上のような考えから、次の経営人財育成のためにも、毎月4%の人事異動を継続しているのです。

 

日本の企業では、人事畑、技術畑といった言葉があるように、一つか精々2つの機能しか経験しないで、経営トップになっていることは珍しくありません。そかしそれでは、経営の全体像を肌感覚で分かることには、どんな優秀な人でも限界があるのではないでしょうか?

 

まさに、アニコムの小森さんが行ってきたことは、人事異動で部署が代わるのは、精々2~3回といった常識を問い直す経営管理の仕組みだと思います。



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