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昨今の「働き方改革」に欠けているもの

執筆:松島 紀三男(まつしま きみお)-働き方改革 公開:2018年4月26日(木)

1.「労働生産性」に偏った「働き方改革」
 
近年「働き方改革」の議論や取り組みが盛んに行われています。
最近大きなムーヴメントとなっているのは、政府による「働き方改革」の提唱、主導の影響が大きいと思われますが、個々の企業の労働生産性や労働者の権利を尊重しようという問題意識の高まりによる影響も大きいと推察します。
多くの企業が「働き方改革」に積極的に取り組まれるのは素晴らしいことだと思いますが、それらの取り組み、また「働き方改革」をビジネスチャンスととらえ、自社のソリューションを「働き方改革」のソリューションと位置づけているベンダー等の宣伝を見ると、大切な観点が欠落しているなあと感じることがあります。
 
いったい何が欠けているのか?
 
それは、一言でいうと、
 
「多様な人々が働く」ということ。
 
現在進められている「働き方改革」の多くは、今働いている人々の「労働生産性」の向上に主に焦点が当てられており、より「多様な人々が働く」ことへの注力が不足していると感じることが多いのです。
もちろん「働き方改革」に唯一の正解があるわけではないので、「労働生産性」の向上を主たる目標とした「働き方改革」が悪いと言っているわけではありません。
国際的に見ても、日本の産業の労働生産性は、諸外国と比べて非常に低いことは長年の課題とされていますので、これはこれで大切な課題です。
 
2.「労働生産性の向上」に偏った「働き方改革」には限界がある
 
しかし、今働いている従業員の労働生産性の向上だけでは解決が困難な課題があります。
少子高齢化の急速な進行による人手不足の問題は、大半の企業にとって深刻な経営課題になっていますが、個々の従業員の労働生産性の向上だけでは解決は困難です。
 
人手不足には、大別して以下の2つの方法が考えられます。
 
1)自動化による省人化
 
2)労働市場からの採用の拡大
 
1)の自動化は、AIの活用もあいまって、今後急速に進むでしょう。それによって劇的に現場の働き方が変わり、人手不足の解消の大きな武器となることは間違いありません。
しかし、自動化による省人化にも限界があります。
第1に、全ての業務をAIや機械等の人間以外のシステムに置き換えることはできません。
たとえば、接客サービス等、人を通じて提供されるサービス自体が付加価値となっているビジネスはたくさんあります。
第2に、昨今AI等の人間に変わる高度なシステムの急速な技術革新が進んでいるとはいえ、1、2年で簡単に劇的な省人化ができるという確証はありません。
 
以上のことから、人でないとできない働く価値を積極的に追求するという意味でも、短期的な人手不足解消が困難という意味でも、自動化による省人化には限界があり、2)の労働市場からの採用の拡大を図ることは、多くの企業にとって不可欠の課題と考えます。
 
3.「多様な人々」が多様に働ける「働き方改革」が各企業の経営課題解決につながる
 
それでは労働市場からの採用の拡大を図るためにはどうすればいいのでしょうか。
これには2つの方法があります。
 
1)労働市場において自社の魅力度を高める
 
2)採用の間口を広げる
 
いくら採用のプロモーションにお金をつぎ込んでも、労働者から見て自社の魅力度が低ければ採用の母集団は拡大しませんし、仮に入社されてもすぐに辞められてしまいます。その意味で、1)の「労働市場において自社の魅力度を高める」には、本質的解決策として、労働者が積極的にこの会社で働きたい、と思われるような、従業員幸福度(EH)の高い、いい会社になることが、人手不足解消の王道といえるでしょう。
次に2)の「採用の間口を広げる」とは、これまで採用の対象としてきた労働者の属性の範囲を思い切って拡大するということです。
最近、経営者や人事担当者にお目にかかると「人手不足で募集をかけてもなかなか応募者が集まらない」という話をよく伺いますが、高齢者や障害者、外国人等に門戸を閉ざし「人手不足」と嘆いている方々が少なくありません。
多様な人々に応募の機会を設けず、ダイバーシティに消極的な企業が人手不足を嘆くのはいかがなものかと感じます。
働く意欲は旺盛でも、就職の困難さに直面している高齢者や障害者、外国人、出産を経て、育児との両立に悩む女性等、多様な人々に広く働く機会を提供することで、人手不足の解消につながる企業は非常に多いと考えます。
さらに、そのように就職の困難に直面している社会的弱者に広く雇用の機会を提供することが、会社の価値を高め、ひいては労働市場における魅力度を高めることにもつながると確信します。
すなわち「多様な人々」が、各人の状況に応じ、多様に働ける「働き方改革」を実現することで、人手不足というに悩む各企業の経営課題解決にもつながると考えるのです。
 
4.政策としての「働き方改革」が目指す「働き方」「働く人々」の「多様性」
 
これまで述べてきた論点は、政府が提唱する政策としての「働き方改革」にも合致するものです。
政府の「働き方改革」および、それが目指す「一億総活躍社会」という政策については、批判も多々ありますが、その目指すところ、主要論点には、見るべきものがあると考えます。
 
政府の「働き方改革実現会議(平成28年9月~29年3月)」の論点は、下記のようにまとめることができます。
 
1. 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
2. 賃金引き上げと労働生産性の向上
3. 時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正
4. 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題
5. 多様な選考・採用機会
6. テレワーク、副業・兼業などの柔軟な働き方
7. 働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備
8. 高齢者の就業促進
9. 障害者の就業環境整備
10. 病気の治療や子育て・介護と仕事の両立
11. 外国人材の受入れの問題
(出所:首相官邸 働き方改革実現会議 HP)
 
上記に共通する重要なキーワードのひとつが「多様性」であると考えます。
すなわち「多様な人々」が働けるように「多様な働き方」の仕組みを実現することで、各企業もさらに「いい会社」となり、従業員幸福度(EH)も高まることが期待できます。ひいては政府の提唱する「一億総活躍社会」も実現し、国民の総幸福量(GNH)の向上にも資すると考えます。

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