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常識7.借金は、必要な時にする!

執筆:藤井 正隆(ふじい まさたか) 公開:



企業において、借金は、①困ったとき ②新しく投資が必要な時にするのが常識です。しかし、本当に銀行との付き合い方が分かっている企業は、全くお金が必要がない時に借金をします。むしろ、景気が悪く厳しい時代には地道に返却をするのです。

 

金融機関の間接金融を中心に運営してきた企業が多い日本では、銀行との付き合い方は非常に重要です。ビジネススクールに通ったとしても、基本的なアカウンティングとファイナンスの基本知識を教えてくれるだけで、金融機関との付き合い方は教えてくれません。ところが実際の経営では、金融機関との付き合い方次第で倒産といった最悪の事態になりかねません。つまり、実学としては非常に重要なのです。

 

まず、融資とは何かについて考えてみましょう。

一度融資が出ると「資金繰りが苦しいから追加」と、自分のお金や苦労したお金でないから簡単に使ってしまうといったことになりかねません。

また資金繰りだけでなく、投資という理由での融資でも、同じような心理状態になりやすいのが実情です。

一方、銀行員は融資貸し出し残高のノルマがあるため、会社というより、銀行の都合で貸し出します。よく優良企業に低金利でいいから借りてくれないかと言われるのはこのためです。

 

融資が必要な業種・業態があります。

時間的な要因です。多くの場合、経営者の銀行融資の考え方にあります。例えば建設会社の場合、支払いと入金でタイムラグが発生します。1年間でビルを建てる場合、着工時、中間、完成時といった3分割が多いのですが、協力業者との支払いの関係で、キャッシュが不足するケースがあるからです。そのため、「つなぎ融資」が必要になりますが、時間がくれば返せます。

 

小売業などは、仕入れ代金のための融資が発生します。魅力的な商品を見出して、必ず売れると確信できれば、大きな利益を得る可能性があるからです。また仕入はロットが大きければ1個当たりの仕入金額が安くなることもよくあります。ここは、商売人としての見極め次第で、見極めを間違えると在庫になってしまいます。しかし時として、在庫リスクや税金のリスク、売れ残りリスクなどを計算に入れて、勝負をしなければならないこともあるでしょう。

 

出店や機械設備等の固定資産を買うための融資もあります。

 

小売業であれば出店や店舗改装、製造業の方であれば機械設備への投資が必要です。しかし、これも慎重に行うべきです。

東国原(そのまんま東)さんが、宮崎県知事を務めた前後で、宮崎県を取材で何度が訪れたことがあります。「宮崎をどげんとせんといきゃん!」といって、お笑い芸人であった知名度を最大限に生かして、宮崎のセールスマンと自らを称して県の特産物の売上に大きく貢献しました。しかし東国原さんが宮崎を去った後、設備だけが残り、かえって返済で苦しくなったといった声を、現地の経営者から聞きました。つまり、しっかりとしたリスクも含めた見極めが必要なのです。希望的な観測だけの融資は危険極まりないといえます。

 

急成長企業では、キャッシュの回収よりも先に支払いが来る場合もあります。

急成長が見込める場合、融資を上手く活用することで飛躍的な成長が可能になります。逆に、ここで慎重になり過ぎると、成長が鈍ったり、黒字倒産といった最悪な事態に陥ります。

 

売上減少、毎月の返済、賞与の支払い等、慢性的な資金繰りの苦しさからの融資は避けなければなりません。しかし、現在、日本の法人の約7割が赤字決算ですから、当然、資金繰りが理由で融資を受ける企業が多いのも現実です。

 

付き合いのための融資・将来に備えるための融資についてです。借りる必要はないけれど、銀行と付き合いを始めるために借りておくという融資です。

「銀行は晴れたときに傘を貸して、雨が降ると傘を貸さない」と言われます。

そういった意味で、将来のことを考えて融資を受けておき利息をつけて返していくのは「リスク回避」という点では意味でも必要です。

 

関東で大地震が起きるといったことも、東日本大震災を経験した私たちは、自社ではコントロールできないリスクがあることを実感したと思います。

利息も元本が大きくなければそれほど多額にはなりません。また銀行は事故なく毎月キチンと返済してくれるという信用も重視します。

 

一方、以外と経営者も知らないことは、「税引後利益」からしか返済のお金は出ないことです。つまり、融資の元本部分の返済は経費になりません。そうした前提をよく考えた上で融資を受けるかどうかを慎重に考える必要があります。

 

会計士にもいろいろいます。町の会計士で、税金の計算だけやるようなところや、一方、

コンサルティングその他、手広くやっているところもあります。

 

現在、多くの会計士が弥生会計などのソフトができたことで、付加価値を見出すことが難しくなっています。そうした中で、古田土会計(東京)、浅沼会計(群馬)は、両会計事務所ともクライアントが約2,000社という巨大な会計事務所です。

 

2000社もクライアントがあると、いろいろなデータがわかります。例えば、マスコミ等で発表される賞与基準は、中小企業ではなく大企業が中心です。なぜなら、中小企業では公表していないところが多いために、正確なデータが取れないからです。

 

古田土所長、浅沼所長のお二人と融資についてのお話をしたことがありますが、共通していたことは、優良企業の融資についての考え方です。

 

バブル崩壊、リーマンショックといった厳しい時は、当然、赤字企業が増えます。しかし、長年やっていると、好景気のことも分かるそうです。

好景気の時は、赤字企業が全くなくなるのではなく、やはり、2~3割があったそうです。一方、今現在は、構造的なものも多いのですが、この比率は逆転します。つまり、前述のように、7割が赤字になるのです。

 

さらに、優良企業は、お金が必要でないときに借りて、ダメ企業ほど、お金が必要なときになって借りるそうです。余裕があるときは、比較的有利な条件で銀行から借りられるだけでなく、厳しくなったときも慌てないで対処することができるのです。

 

さらに、ノルマがある銀行に貸しを作り、お客様を紹介してもらったり・・・と抜け目がありません。金利は損益計算書上、営業外費用として支払利息という科目に記載されますが、実務上は、金利は営業上の経費と考えているのです。このように、優良企業は、常にお金のある状況と有利にビジネス展開を、自ら作り出しているのです。

ダメ企業は、優良企業と逆のことをして、悪循環になっていることは、もうお分かりだと思います。かといって闇雲で多くのお金を借りたらいいのか?と言えば、そうではありません。何事も、限度、適正といった考え方が重要です。

 

以上のことを整理すると以下の3点が、融資に関するポイントだと思います。

1. 将来のリスクと金融機関とのお付き合いを考えて、余裕があるとき、つまりお金が必要でない時に、あえて借りる。

2. 融資の目的を考えて、融資の金額、返済計画、税金計算その他を多面的に考えて借りる。

3. 実質、無借金を目指し、融資を前提とした運営に陥らないように、十分に注意する。

 

銭抜き経営では、いい会社は創れません。いくら、社会貢献活動に熱心であっても、持続性がなければ、結果としてステークホルダーが幸せにならないからです。融資に関することは、特に、中小企業の経営者としては、会社の存続に直結する重要なことです。優良企業がやっている実学は、ビジネススクールでは教えてくれない貴重なことを示唆していると思います。



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