第8回 マネジャーと部下の信頼の構築

執筆:伊藤 弘子(いとう ひろこ) 公開:



前回のコラムに引き続き、どのようにしてマネジャーが部下やチームメンバーとの信頼を構築すればよいかについて紹介します。

 

ちなみに、ハーバードビジネススクールのコッターとヘスケットが20業種、それぞれ9~10社、200社近くを4年間にわたって調査したところ、信頼の高い組織と信頼の低い組織では、純利益755%、株価836%、売上516%、社員数246%の差が開いたというデータが示されています。

 

私自身が関与させていただいた組織でも、信頼度の高い組織とそうでない組織では10年間で企業規模・売上ともに大きな差になっていました。

信頼度が高い組織では、人の定着がよいことは十分に理解されると思いますが、業績や個人の成長にも大きな差をもたらしていることを実感しました。

 

そもそも信頼の高い組織を築くことは経営者の姿勢そのものが表れているように思います。ですが、組織としてはあまり信頼度が高くない場合でも、一拠点だけは信頼度が高いといったことも実際に目にしてきました。ここでは、そうしたチームを築くための方法をご紹介します。

 

これは現実に私が関与させていただいた組織の例ですが、マネジャーを対象とする研修を実施させていただいて、大きく変化をあげた方の好事例としてご紹介します。

 

変化をあげたマネジャーに共通していた点として、部下を信頼するということでした。今までは、部下を信頼するというよりも、できる部下に仕事を与えて、できない部下にはそれなりにという接し方をされていました。ところが、そのことによってチーム内に見えない不公平感を作り出し、無意識のうちに指導を怠っていたことに氣づかれました。そこで、重点的に指導を必要とする部下を選び、その部下の力を引き出すための具体的な計画を作成しました。部下の人の立場に立ってみると、何がモチベーションにつながるのか、またなぜ今のような行動が続いてしまっていたのかを十分に検討していくことで、本当に必要な介入が明確になったようです。そして、その計画に基づいて、部下の方との面接を行ったり、声掛けを実践したりされました。相手の中にあるまっすぐな力を信頼して声をかけたり、褒めたりを心がけて実践されました。また、相手にどうなってもらいたいかというマネジャー自身の目標も設定していただきました。今までは、ただここが問題、あそこが問題と問題に焦点があたっていたようです。それが目標を設定することで、一緒にどうなっていきたいかという前向きな方向に意識が向きました。さらに、部下育成は長期的・計画的にということは大前提です。そこで、短期的に結果を求めるのでなく、長期的な意識で少しずつの変化をしっかりと確認しながら育成を進めていただきました。その結果、半年たってみると、選定された部下が大きく変化しただけでなく、チーム全体が変化し、マネジャーと部下との信頼がより一層強くなって、みんなで目標達成するという一体感が生まれ、結果として業績アップ、目標達成につながっていたそうです。

 

一見、遠回りに見える人材育成に力を注ぐことで、信頼が生まれ、その信頼によって、みんなの目指す方向がひとつになって目標達成につながるという好循環が生まれます。短絡的に数字を求めたり、結果を求めたりしていると、結果的に人材育成が疎かになり、信頼関係が崩れ、目標達成が危うくなるという悪循環を生み出します。

そうならないためにも、できるだけ多くのマネジャーが真の人材育成に力を注げるようになってほしいと願います。

 

これで、今回の一連のコラムを終了します。



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