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第9回「働き過ぎ」を解消するには

執筆:松島 紀三男(まつしま きみお) 公開:2016年12月26日(月)

1.「働き過ぎ」の多重奏、デスクインテットからの脱却を目指して

 

前回のコラムで「働き過ぎ」には合併症が多く存在することを述べました。私は、この「働き過ぎ」の多重奏を「『働き過ぎ』のデス・クインテット(五重奏)」と呼んでいます。

 

■「働き過ぎ」のデス・クインテット(五重奏)

 

1)長すぎる時間

2)強すぎるストレス

3)低すぎる人権擁護

4)低すぎる処遇

5)犠牲にされすぎる私生活

 

ただし、必ず五重奏になるとは限らず、ソロ(どれかひとつの「働き過ぎ」要素だけ)からデュオ、トリオ、カルテットの場合も数多く存在します。

したがって、作曲家が編成を決めてから作曲にとりかかるように、まずは「働き過ぎ」の奏者が何人編成か、すなわち合併症の有無、いくつの「働き過ぎ」が合併しているかを正しく判断する必要があります。言い換えると「働き過ぎ」の実態を「見える化」する必要があるということです。

 

2.「働き過ぎ」を解消するには

 

それでは、「働き過ぎ」を解消するにはどうしたらいいのでしょうか。一朝一夕に進まない場合も多いとは思いますが、以下のようなポイントが重要と考えます。

 

1)     「働き過ぎ」の実態の「見える化」、フィードバック

 

上で述べた通り、まずは「働き過ぎ」の実態がきちんと把握され「見える化」することが大事です。実は「働き過ぎ」の実態が潜在化しているケースは多く見受けられます。

それは前回指摘したように①「長時間労働」の客観的実態が潜在化しやすく、しばしば「不払い残業」(サービス残業)として潜在化していることが多いこと、②「働き過ぎ」の質的問題は精神的要素、従業員個々の内面の問題であるため見えにくいからです。

「働き過ぎ」に限らず、問題は「見える化」されない限り、解決に踏み出すことはできません。ですから「働き過ぎ」の解消には、まずは実態の「見える化」が絶対条件となるのです。

 

 

 

2)     「働き過ぎ」の原因究明

 

次ぎにおすすめしたいのは「働き過ぎ」の原因究明です。根本的な問題解決のためには、やはり、原因を特定し「元から絶つ」のが理想です。

たとえば「長時間労働」という現象は一つでも、発生のメカニズムには様々なパターンがあります。仮にA社とB社が、いずれも毎月従業員一人当たり60時間の「残業」を行っているとしましょう。その原因はというと、以下の通りだとして、同じ施策で解決可能でしょうか。

 

A社→「残業」発生の主な原因…人手不足による過重労働

 

B社→「残業」発生の主な原因…遅くまで仕事をするのが好きな管理者への付き合い残業

 

A社の場合は、採用に注力して必要な人財を確保するか、自動化、ICT化等により、省人化をはかないと「働き過ぎ」は解消しないでしょう。

B社の場合は、付き合い残業の実態を全員で共有し、上司への気兼ねなく帰ることを申し合わせする、さらに上司が率先して早く帰ること等が望ましいでしょう。

上のような会社の状況に適した施策を打たない場合、どうなるでしょうか。例えば「残業禁止」令を発した場合、どうなるか。B社の場合、一定の効果が期待できます。「残業禁止」が付き合い残業の規範打破につながるからです。A社の場合は、職場の機能不全、顧客満足の低下、深刻な業績の低下を招き、経営不振という重篤な副作用が出る可能性が高いと考えられます。

 

 

3)     「人を大切にする経営」経営理念の制定、共有

 

「働き過ぎ」を解消、防止するには、経営理念レベルからの変革が不可欠です。「人を大切にする経営」を経営理念に明記、共有することをおすすめします。国でいえば憲法で基本的人権の尊重をうたうようなものです。

理念に掲げただけで、自動的に「働き過ぎ」が解消できるわけではありませんが、まずは「働き過ぎ」は良くないこと、残業せずに帰る、休むということが望ましい働き方であるという社内共通のお墨付きの役割が期待できます。

「ひとを大切にする経営」を理念に明記、共有することで、管理者も職場メンバも堂々と「働き過ぎ」のない職場づくりに取り組むことができます。

 

4)     高収益・高効率ビジネスモデルの追求

 

経営者、従業員の意思に反して「長時間労働」が慢性化しているケースでは、事業が低収益のため、人海戦術、労働量(「長時間労働」)でなんとかまかなっているという場合が見られます。こういう会社では、賃金水準は同業他社と比べて同等、または低いにもかかわらず、労働分配率は高く、経常利益率は低い、または、しばしば赤字に陥ります。

要は、ビジネスモデルとして成り立っていないのです。普通の従業員があたり前に働いて、人並みの生活ができ、会社も利益が確保できる。このような収益性と生産性が確保できる事業のモデルが確立できない限り「働き過ぎ」は根本的に解消できません。

「働き過ぎ」解消策の第1選択がマーケティングの再構築という会社は案外多いものです。

 

5)     「働き過ぎ」解消の解決策検討

 

 「働き過ぎ」の解消には創造性、問題解決能力も不可欠です。ユニークな経営で成功している会社は、必ずといつてよいぼと、斬新で画期的な「働き過ぎ」解消策、残業削減策を実施しています。

 社員の知恵を集めて、我が社ならではの革新的な「働き過ぎ」解消策を検討してみることをおすすめします。

 

6)     「デッドライン」の設定による「働き過ぎ」の解消

 

 「働き過ぎ」解消のシンプルで即効性ある処方は「働き過ぎ」を防止する「デッドライン」を設定することです。これを私は「働き過ぎ」解消、残業削減の「デッドライン・アプローチ」と呼んでいます。

 例えば「ノー・残業デー」「残業禁止令」等がこれに当たります。その他にも様々な方法、ノウハウがあります。以前「パーキンソンの第1法則」について述べましたが、人間は与えられたリソース(ここでは時間)を全て使い切る性質があるので、リソースそのものを細かく制限することで時間の浪費、資源の浪費を防ぐという考え方です。

 「企画書はA4一枚」「会議は30分以内」等のルールを定めることも有効です。「働き過ぎ」の原因、ボトルネックとなる工程を見つけて、そこにデッドラインを設定してみるとよいでしょう。

ただし、機械的にやりすぎると「風呂敷残業」「不払い(サービス)残業」等の原因となるので、注意しましょう。

 

7)     「人を大切にする経営」リーダーシップの発揮

 

 どんな取り組みもトップのリーダーシップなしには成功しません。「働き過ぎ」も同様です。トップの強い決意と率先垂範、粘り強い努力で進めることが肝要です。

 そのためには、トップ、管理者自ら「働き過ぎ」とならないようにしないといけませんね。「働き過ぎ」解消も「背中で伝える」ことが大事です。

 

8)     労働組合の設立

 

 私の調査によると、労働組合の有無は「不払い残業」の解消と「超長時間労働」の抑止に効果あり、という結果が出ています。「パワハラ」「セクハラ」等の防止にも効果大です。

 いまの会社に労働組合があれば、労働組合との連携、労働組合への相談等が有効です。もし会社に労働組合がない場合は、「働き過ぎ」解消、防止のためにも設立を考えてみてはいかがでしょうか。

さらに知りたい方(コンサルタントに連絡をとる)