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「残業ゼロを目指して」#7 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン 」の意義

執筆:松島 紀三男(まつしま きみお) 公開:2017年7月13日(木)

私は最近「残業ゼロ」「残業削減」を研究テーマとして力を入れています。そのため「残業ゼロ」実現を目指して、それにまつわるいろいろなことを綴っています。お付き合いただければ幸いです。

 今回のテーマは、

 

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン 」

 

について触れることにします。

 

「残業削減」「残業ゼロ」の実現のためには、客観的に労働時間の実態を把握することが不可欠ですが、今年、それに関わる法令が改正されました。私は、このガイドラインが遵守されれば、デッドライン・マネジメントとしてはかなり有効と考えています。

結論から言えば「労働時間の適正な把握」がなされることによって、本来必要ない残業や、安易な不払い(サービス)残業への依存が解消されると考えています。

逆に言うと、これまでの自己申告による労働時間の記録を中心とするやり方では、タテマエの労働時間と、潜在化している不払い(サービス)残業の乖離という問題が固定化しやすく、効果的な残業削減が難しいということです。

すなわち「労働時間の適正な把握」は「残業ゼロ」実現の一丁目一番地ということです。

 

そこで、ご存知の方も多いと思いますが、今回はこの「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン 」を見ていきましょう。

 

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」

(厚生労働省ホームページより)

 

※以下、同ガイドラインからの抜粋。下線は筆者による。

1.趣旨

労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している。

しかしながら、現状をみると、労働時間の把握に係る自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの。以下同じ。)の不適正な運用等に伴い、同法に違反する過重な長時間労働や割増賃金の未払いといった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところである。

このため、本ガイドラインでは、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにする。

 

「労働時間の把握に係る自己申告制」が、不払い(サービス)残業の温床になっていることが示されており、的確な問題の指摘になっていると思います。

 

2.適用の範囲

本ガイドラインの対象事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定が適用される全ての事業場であること。

また、本ガイドラインに基づき使用者(使用者から労働時間を管理する権限の委譲を受けた者を含む。以下同じ。)が労働時間の適正な把握を行うべき対象労働者は、労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除く全ての者であること。

なお、本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。

 

本ガイドラインの対象は、「労働時間に係る規定が適用される全ての事業場」であり、「本ガイドラインが適用されない労働者についても、「健康確保を図る必要」「から、使用者は「適正な労働時間管理を行う責務」があると規定されています。

広範に使用者の責務を定めていることに注目すべきでしょうね。

 

3.労働時間の考え方

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。

 

「黙示の指示」という言葉が大事なポイントです。すなわち、たとえ管理者が「残業」の命令をしていなくても、或いは「残業」しないで定時で帰るよう指示をしても、部下が必要に迫られて慢性的に残業を強いられている状態であれば、法的には「時間外労働」「労働時間」に含まれると判断される可能性が高いということです。

 

4.労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置

(1)始業・終業時刻の確認及び記録

使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認し、これを記録すること。

(2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法

使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。

使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。

タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

 

ここでのポイントは下記の点です。

 

使用者が、自ら現認

タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認

 

自己申告による不払い(サービス)残業防止として効果的な方法と考えます。実際私のお客様でも上記の方法を徹底することで、劇的に「残業削減」「不払い(サービス)残業」撲滅の成果を上げていらっしゃる企業があります。

ただし、現実的にそういう方法がとれない企業もあることから、以下のような方法をとることとされています。

(3)自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置

上記(2)の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。

ア 自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。

イ 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。

ウ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。

特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。

自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。

すなわち、自己申告が正しく労働時間管理の方法として機能するためには以下の項目が重要であるということですね。

 

l  労働者、管理者に対する十分な説明

実態調査の実施とそれに基づく補正

l  入退場記録やパソコンの使用時間記録など、客観的に時間の分かるデータとの照合と補正

 

適正な労働時間管理のためには、研修、実態調査、客観的データの活用が効果的と考えます。

 

その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。

 

「自主参加」というタテマエで実施されている研修等も、実態として参加せざるを得ない状況と判断されれば「労働時間」にあたる可能性があるということですね。

 

オ 自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。

また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。

さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。

 

ここでは、以下のような不払い(サービス)残業を産む典型的要因が指摘されています。

 

l  労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない

l  時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払

36協定の延長できる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにする慣習

 

上記の制度や慣行は私がこれまで見て来た多くの企業で、不払い(サービス)残業発生の元凶となっていました。

 

(4)賃金台帳の適正な調製

使用者は、労働基準法第108条及び同法施行規則第54条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。

また、賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法第120条に基づき、30万円以下の罰金に処されること。

(5)労働時間の記録に関する書類の保存

使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条に基づき、3年間保存しなければならないこと。

(6)労働時間を管理する者の職務

事業場において労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働時間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図ること。

(7)労働時間等設定改善委員会等の活用

使用者は、事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うこと。

賃金台帳について、

 

労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入すること

 

を義務づけ、

 

記入していない場合故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合、30万円以下の罰金

 

と、罰則を定めています。

 

また、

 

労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用

 

すること、とされています。

 

以上のように、本ガイドラインは不払い(サービス)残業の原因、温床となる会社、労働組合を含めた組織の実態や労働者の働き方に鋭く切り込んだ内容となっており、これを遵守することでかなりの効果を発揮するものと考えます。

ただし、本ガイドラインは不払い(サービス)残業を解消するために有効とは考えられるものの、なぜ、そのように労働時間が長くなるのかということには言及されていません。

「残業削減」「残業ゼロ」の実現のためには本ガイドラインに基づく「適正な労働時間の把握」と共に、法令の枠を超えるような長時間労働の原因を明らかにし、「残業削減」につなげる問題解決が不可欠です。

「残業実態」の把握と「残業原因」の究明に基づく問題解決が「残業削減」「残業ゼロ」のための車の両輪と言えます。後者については、本稿とは別のコラムでも触れていますが、今後の機会として解説することにします。

さらに知りたい方(コンサルタントに連絡をとる)