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常識3.製造メーカーでは在庫は少ない方がいい!

執筆:藤井 正隆(ふじい まさたか) 公開:



9月に入り多少気温が下がりましたが、まだまだ、熱い日が続きます。そうした中、訪問した新潟の石油ファンヒーターのシェアトップメーカーのダイニチの工場では、冬の季節商品である家庭用石油ファンヒーターが、次々とつくられていました。

 

今から、冬場に売れることを見込んで生産をしているのかといえばそうではありません。

毎年、12月のボーナス商戦を終えて石油ファンヒーターが売れる1月2月が過ぎても、月産11万台の一定のペースで生産されるそうです。9月現在、85万台まで在庫が膨らむピークになります。ダイニチの主力商品は、一部海外販売を除いて国内向けのファンヒーターです。いずれにしても、4月~9月までは常に赤字が続きます。それを10月以降で挽回するといった売上構造になっています。それでも1964年の創業以来、赤字になったのは2期だけです。

 

トヨタ生産方式、ジャスト・イン・タイムに代表されるように、製造メーカーでは、在庫をできるだけ持たないことがいいと言われています。吉井久夫社長は、「在庫を持たないことは必ずしもいいことばかりではない」と言われました。

 

理由は以下の通りです。

1.一年の内、秋冬しか売れない商品を、在庫を持たないで作ったら、膨大な設備が必要になる。

2.社員約500名がパート2名を除き正社員であり季節工を使いたくない。(季節工といった会社都合の雇用調整はやりたくない)社員であれば休ませるわけにはいかない。

3.ダイニチは、総生産台数の半分を協力会社に委託している。協力会社の生産台数も自社生産と同じで、秋冬しか仕事がないと困る。協力会社で働くダイニチ社員と約同人数の500人の雇用にも影響が出る。ダイニチは現金を持っているが、協力会社は、資金的に必ずしも潤沢ではない。

 

ジャスト・イン・タイムは、アッセンブリーメーカーにとっては、都合がよく効率的ですが、結局、協力会社が在庫を持つことになります。つまり、一つの製品ができる過程で、どこかが在庫を持たないといけないのです。そのしわ寄せが協力会社にいっているとしたら、本当にジャスト・イン・タイムがいいのか?自社が在庫を持たないことがいいのか?と考えさせられます。

 

正社員中心で、製品在庫を多く持つ経営は、取引先とのビジネスにおいてもメリットがあります。

1.家電量販店において、バイヤーが一番気になるのは欠品による機会ロスですが、在庫

があれば直ぐに納品できます。このことは、在庫を持たない競争相手よりも信頼され、店舗数が多い大手家電量販店ほど在庫をタップリ持っているダイニチは頼りになる存在になる。

2.冬の繁忙期にも文句ひとつ言わないで、一緒に頑張る社員や協力会社のお蔭で、例え、急激な気温の変化等で、在庫が無くなる位売れたとしても、正月休みが実質無くても一生懸命納期を守ろうと頑張ってくれ、他のメーカーより短い時間の納品できる。

3.正社員中心で生産技術が高いために、受注の変化に合わせて、売れ筋商品を柔軟に生産する体制に早変わりするなど、多品種少量にきめ細かく対応できる。

 

前述のように、こうしたビジネスモデルになった背景は競争力を高めることではありません。全員正社員で生活を安定させることや協力会社への安定発注して、同じくそこで働く社員の雇用を守るためです。

 

吉井社長は、

「衣食足りて冷食を知るではないが、貧しさがいろいろな問題を起こしている。金銭的に余裕の生活ができれば、かなりの問題が解決される。夫婦喧嘩その他、友達関係もそうだろう。まずは、社員をはじめ、会社に関わる人が、しっかりとした生活ができるようにすることが他のことより重要だと思っている。経営者として、給料を上げることに価値観を置いて仕事をしている。」と話されました。

 

ダイニチで働く人の給料や退職金は、県内の他の会社よりも厚遇です。さらに、定年退職した後の年金支給額と生活費のギャップを考えて退職金が上げることに取り組んでいます。東証一部上場会社で、内部留保を多く持ち、自己資本比率が高くしているのは、社員の生活を守るために会社を潰さないためです。

 

ダイニチは、売上や利益は、関係者を幸せにする手段であるとしています。しかし、結果はどうでしょう?90年代後半には、大手電機メーカーも含めて14社がひしめきあっていた家庭用石油ファンヒーター市場にはダイニチをはじめ4社だけが残っています。そして、現在、ダイニチのシェアは50%で、NO1企業に成長しています。

まだ、暑い日が続く9月上旬の工場に積み上がった暖房器具を見て、経営の目的を、関わる人の幸せ軸に置くことで、経営に関する考え方やビジネスモデルにまで影響があることを目の当たりにしました。経済軸、効率軸の経営とは真逆の考え方で成長するダイニチを見て企業経営の在り方について改めて考えさせられました。

 



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