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常識5.スーパーマーケットは、非正社員中心!

執筆:藤井 正隆(ふじい まさたか) 公開:



流通業界セオリー無視。客の声に応える店づくり・商品展開を実践。客とのやり取りも判断材料にして、1点からでも現場の担当者は個別に仕入れを行うし、客が来れば定刻前でも店を開ける。正社員率は7割で、配属は100%社員の希望どおり。それでいて経常利益8%のスーパーがオオゼキです。

 

「ママ、うちはいくらお金があったら暮らせるんだい?」

「1日、250円から300円ですよ」

「じゃあ、あとは全部お客さんに還元しよう。余計な儲けは少なくして、お客さんに喜んでもらおう」

「お父さん、お父さん、今のお客さん、明日もまた来てくれるかね?」

 

当社がまだ「大関屋食品店」、わずか7・5坪の個人商店だったころ、創業者佐藤達雄と妻正恵が交わした会話です。ここにオオゼキの企業理念の全てが凝縮されています。

オオゼキには一つとして同じ店舗がありません。各店長が独立した経営者として店作りを行い、それぞれの売場担当が「個客」主義を徹底して追求した結果、自ずと品揃えや売り方が独自の進化を遂げていくのです。

(オオゼキHPより)

 

大手スーパーが従来から採用してきたのは、スケールメリットを生かした効率重視の経営手法でした。ところが、流通業界は大手スーパーといえども軒並み経営が厳しく、わずかの利益しか出せていないのが現状です。

それに引き換え、全く対照的ともいえる手法によって二一期連続増収増益を達成し、経常利益8%をたたき出しているスーパーがあります。ダイエー誕生と同年に創業、東京都世田谷区に本社を置き、三十三店舗を展開するオオゼキです。そのユニークな経営から、同業他社が視察に訪れることでも有名です。

特にユニークなのは、仕入れに関するシステムでしょう。一般的には、多店舗展開するチェーンストアでは、本部のバイヤーが一括して仕入れを行います。一度に大量に仕入れることで、仕入れ値を低く抑える交渉力を得ることができるからです。そして各店舗は、本部のバイヤーが仕入れた商品を売ることだけに徹するという図式になります。

しかし、オオゼキのやり方は他のスーパーとは全く違います。各店舗の各部門の社員が、自ら仕入れ、販売するという自己完結型なのです。ですから業績の責任まで部門が負い、部門長は売上から利益まで、すべての管理を義務づけられています。

このユニークな経営手法の背景にあるのが「客の声を直接聞く」というオオゼキならではの姿勢なのです。

1.流通業の基本セオリーより「客の声」を重視

 オオゼキでは、流通業界における一般的なセオリーよりも、「客の声」に沿った店づくりを基本方針としています。客の声を絶えず聞くのはもちろんですが、客の買い物の様子や店員とのやり取りの中からも、客のニーズを感じ取ることが大切だといいます。そういった情報を基に売り場担当者が判断し、自分たちの裁量で、自由に店舗の運営を変化させていくのです。

客の目線に合わせて対話し、要望があればすぐに変更する。各店舗・各担当者の裁量に任されているがゆえに可能となるスピーディな対応が、客にとっても魅力となります。だからこそ、1品買った人がもう1品買ったり、今日来た人が明日も来たりという好循環が出来上がる。これがオオゼキの考えです。

創業者である故佐藤達雄氏は、こう断言しました。

「お客様の声を毎日聞いている売り場の担当者に、仕入れの責任を持たせることが当たり前。売ろうという意欲が高まるし、買いたい商品がないという声に象徴される、販売機会の損失や廃棄ロスも減らせる」

 こうした信念の下、入社5~6年の社員からベテランに至るまで、直接、築地や大田市場に出向き、担当する部門で扱う商品を自分で吟味して仕入れているのです。客の要望があれば、たとえ1人からでも、たとえ1点でも受け入れ、何があっても品揃えに加えるそうです。もし、どうしても仕入れられなければ、競合店に買いに行くことさえいとわない徹底ぶりです。野菜などの生鮮品でも、量が多すぎるとなれば半分にでも4分の1にでも、分けて販売してくれるのです。

「顧客」ならぬ「個客」のニーズを大切にすることがオオゼキのモットーだといいますが、そのため、1店当たり平均1万8000点の品揃え(一般的なスーパーの2倍)を実施しています。トマトだけでも二十二種類置いてある店舗もあります。調味料なども、通常は数列同じブランドが並ぶものですが、オオゼキでは1列だけ。醤油だけで100種類以上品揃えしている店舗もあり、同じブランドを数列は並べられないのです。

客の要望に応えてこれだけ多くの品揃えをしていると、効率が悪いように感じるかもしれません。しかし、オオゼキでは「スケールデメリット(大量に仕入れることによるロス)」もあるという考えなのです。

小回りを利かせた仕入れ法としては、大企業の隙間を狙ったやり方も実践しています。オオゼキ全店舗分の量はないが、数店舗分なら用意できるといったメーカーや卸業者から仕入れるという工夫です。また、各部門のチーフたちは、午前7時に市場に自ら出向きます。生鮮品の仕入れには遅いとも思えるこの時間に訪れる意味は、大手スーパーチェーンが、午前中の早い時間に大量に商品を仕入れていった後の売れ残った商品を、安く仕入れられるからです。こういった、昔ながらの商売人的な仕入れも行っているのです。

実際にオオゼキでは、1000万円仕入れてロス廃棄率は1万円弱。0・1%以下です。ロス廃棄率が低い要因は、臨機応変な現場社員の対応にあります。多く仕入れて余りそうになった商品は他の店舗に移動させるといった、店舗間での商品流通を毎日毎時行っています。大根1本でも持っていくそうです。また、例えばキャベツに傷が入れば、すぐにカットしてちゃんとした売り物にします。キャッシュバックカード(現金戻しのカード)の分析データと天候や来店客の動向を見ながら、値引きの時間と率を、部門の担当者が瞬時に決めて売り切ってしまうのです。

一般的に、スーパーにおけるロス廃棄率は、3~4%が平均です。セルフサービスでの買い物が基本であり、従業員と客とのやり取りはありません。タイムサービスといって、例えば一九時といった定時になると値引き販売をするスーパーは多いのですが、客とのやり取りがないと、すべてを売り切ることは難しくなります。

 

2.店舗づくりも、各店の個性に応じてバラバラに

多店舗展開する同業他社は、店舗面積に応じた複数の店舗フォーマットを作成しており、そのフォーマットに則って店舗づくりが行われています。そのため、どこの店舗に行っても、多少の違いはあるものの統一感があり、どこに何が置いてあるのかが客も予測できるものです。ところがこの点でも、オオゼキは各店舗が独自の展開をしており、バラバラなのです。もちろんこれも、顧客の満足を得るためなのはいうまでもありません。

陳列もかなり特徴的です。オオゼキの店舗面積は、平均500㎡前後で、通常のスーパーと同じです。しかし、前述のように平均1万8000種類もの品揃えのため、棚の高いところから足元まで「こんなところにまで陳列しているのか!?」とビックリするような場所にまで商品が並べてあります。おまけに、不揃いのものや泥つきのものも置いてある。面白いものでは、「みかん1個二十円で、好きなもの、よさそうなものを選んで持っていってください」と書かれたプラカードが立てられていることもあります。

所狭しと無造作に並べられた商品を見ていると、ディスカウントストアのドン・キホーテとまではいきませんが、同質のものを感じます。商品の並べ方を気にしないのは、綺麗に陳列することよりも、新鮮なものを種類多く陳列することに重点を置いているからなのです。形だけ揃えても、新鮮ではないものが並んでいたら仕方がないという考えです。ですから、刺身のツマにドリップがにじんでいるようなものは絶対に置かないと、オオゼキは豪語します。  

 

3.人材育成も組織も型破り

 

客のニーズに細かく応えるオオゼキを、人材の面から見てみましょう。

オオゼキでは1店舗当たり約六十人の店員を配しています。店員数は同規模同業他店の約2倍。しかも、通常は三割程度とされる正社員比率は、約七割にも達します。一般的に、大手スーパーは必要最小限の正社員で多くのパートを雇って人件費を削減しています。しかしオオゼキは、店員の量と質を重視し、顧客一人ひとりのニーズに丁寧に対応することで、顧客満足度やリピート率を高めることに眼目を置き、そこで収益性を確保しているのです。

したがって、社員の採用方針も独特です。人間性重視で、前向きに行動する積極性を重んじています。有名校出身の看板などは役に立たないとの考えから、学校名も見ないで面接を繰り返して判断します。

 

前述のように、配属先も本人のやりたいことを重視して決めるため、職場における不適合や配属先のミスマッチはありません。新入社員であっても、好きな職場を見きわめるために事前に研究するからです。配属後の社員教育については、教育研修等のいわゆる導入研修はありません。ただし、マナー(挨拶・規則正しい生活)は重視します。マナーの悪い社員はしっかりとした仕事はできないという考えから、徹底して教育します。本郷人事課長によると、「家庭環境、学校の環境もあると思いますが、今の学生はしつけが全然できていない。社内では徹底して、お客様との挨拶などについてもつねに見られているということを徹底して意識させています」とのことです。

現場での教育は、先輩の背中を見て学ぶのが基本。現場主義による毎日の積み重ねで人を育てているのです。業界では、オオゼキは他のスーパーに比べてスキルが身に着くのが早いといわれています。なぜなら、例えばオオゼキの魚売り場では、入社した次の日から魚をさばかせます。しかし他のスーパーでは、三~五年経ってから初めてやらせるのが普通なのです。しかも客数が多いから経験も増える。一日に魚を二十尾さばくのと三尾しかさばかないのでは、経験量が全く異なってきます。

 

組織もユニークで、社長室もなければ会議も存在しません。日々のコミュニケーションの中で行う「報告・連絡・相談」で十分カバーできているのです。

自分で自分の仕事を選ぶこともできます。店長も立候補制で、やりたい人が店長をやる。新入社員であっても、どこの部署に行くかを自分で選択する。そのため、主要部署に一人も配属されない年もあるくらいです。間接的な人員は一切置かず、客中心主義を徹底し、接客中であれば、店員は社長からの連絡であっても接客を優先することになっています。それどころか、忙しいときには社長も役員もレジに立ち、駐輪場の整理を行い、他の店舗へトラックで荷物を運ぶこともあります。

 

ほとんど現場の判断に任せているので、突然の雨などで店舗が暇になったときにパートの人を帰らせる場合でも上司の承認は不要。店長よりも、現場の状況がわかっている部門の人間が判断すればよいという考えなのです。だから意思決定のスピードも速い。本郷人事課長は次のように語っています。

「今日決めたことを明日やることができる。一カ月前から決めていたことを前日に中止することもできる。それがオオゼキの強みです。他のスーパーでは数週間かかるような稟議書も、オオゼキで三十分以内で回ります」

 

4.社員としての心得があって、顧客満足も生まれる

「正社員でない人に社員の心得を教え込んでも意味がない。商いでは、商品の目利きができないとダメだが、パートでは難しい。信頼できる社員がいつもいるからお客様は安心して来てくださる。他所がやっていないことをやっているからうちが光る。人件費は販売管理費の中で高い比率を占めるが、決して無駄だとは思わない」

創業者の故佐藤氏の言葉ですが、これもまた、大手スーパーとは真逆の考え方です。実際に2009年2月期の本決算では、労働分配率も58・4%と業界トップクラスであり、きわめて高い。ところが販売管理費は18・0%と、驚異的に低い数字になっています。正社員比率を高め、同時に労働分配率を高めているにもかかわらず高収益となっている理由は、人件費以外の経費を徹底的に抑えているからです。

 

例えば新店舗を出店する場合も、基本的には居抜き物件を選び、店舗工事費を極力省きます。さらに、電気・ガス・水道といった経費は徹底的に節約。そうした努力もあって、一般的な食品スーパーの坪当たり年間売上は200~300万円といったところですが、オオゼキの場合は1000万円~1250万と、なんと4倍~5倍にもなります。

オオゼキは、客が来店したときが開店時間です。わざわざ来店してくれた客には、店内に入ってゆっくりしてもらおうということです。9時15分から始まる朝礼では売上報告も行うのですが、客が店内にいても関係なく進められます。時には、ミーティングを見ている客から「もっと頑張って売上を上げないと!」と励まされることもあるそうです。品出しのときも、客と会話をしながら和気藹々と行うなど、フレンドリーな接客を行っています。そんな雰囲気だから、気に入った店員に旅行の土産物を持ってきてくれる客も多いといいます。

客へのこうした対応の効果もあってか、常連の客は、週に約9回来店する(2009年度2月決算説明資料 総売上比率の88.3%を占めるキャッシュバークカードの分析結果より)というからあるというから驚きです。

ところで、これだけ人材が育っていれば、他社からの声もかかるのではという懸念もありますが、同業他社の給料がオオゼキより安いことを知っているので、転職はしないそうです。同業他社では仕事量は少ないかもしれませんが、権限が無いので自分で決められることは限られています。オオゼキでは仕事量は多い代わりに権限があり、ほとんどのことは自分で決められます。それがやる気にもつながるのです。

 

オオゼキの魅力は業績だけではないのでしょう。社員が活き活きと働き、成長できるようなモチベーションの背景には、上からの指示で仕事をするのではなく、自分で考えて仕事ができる環境があります。結果、定着率も他のスーパーに比べて高く、大卒男性で3年間に30%以上が転職する時代に、わずか5%しか退職しません。

社員のモチベーションが高く、習熟した人材が増えると、結果的に顧客へのサービス向上につながる。そういう典型例のひとつが、オオゼキなのです。

 

脱チェーンストア理論「理論ではなく、客が喜ぶことをシンプルに考える」

理論信仰は危険です。一時期成果を上げた理論も、時代が移り変われば成果が上がるどころか足かせになってしまいます。

高度成長期には、流通業で定着化したチェーンストア理論は機能しました。チェーンストア理論とは、多数の店舗を開拓し運営するための考え方と仕組みです。基本的には、規模の利益を追求し、戦略、商品開発、調達等の中枢的機能を本社に集中させます。店舗はオペレーションに専念することで運営効率を高め、コストダウンを図る考え方です。現場の従業員は、決められたことを決められたとおり正確に実行することが求められます。また、多店舗化した全店の仕入れを集中して行うことで、仕入先への交渉力を増すことも狙いとしています。

大手だけではなく中堅も含めて、多店舗化しているスーパーは、ほとんどこの方式です。たしかに、スケールメリットを活かした戦略は、同じ土俵では規模が大きいところに有利です。しかし、マーケットが成熟し、オーバーストア(商圏人口に比べて店舗が多い)になると、チェーンストア理論は必ずしもうまくいかなくなります。その中でオオゼキは、客の声からシンプルに発想し、流通業界で当たり前のチェーンストア理論とは真逆のやり方を行っているのです。

例えば、地域によって客の味の好みに違いがありますが、チェーンストア理論では一括仕入れが前提であるため、地域ごとの個別対応は難しいのが現状です。現場の声は、「本部のバイヤーは、全く店舗の事情をわかっていない。こんなものを仕入れて、売れと言われても売れない」となってしまいます。オオゼキでは、客と直接の接点を持つ売場担当者が仕入れも行うため、こうした不満がない。売れなかったら自分の目利きが悪かったからと納得できるからです。

このような、客にとっても好循環となる仕組みは、従業員の動機づけにもなっています。人間は、他人のプランではなく、自分のプランで実行することが動機づけになるからです。動機づけされた従業員が一所懸命に取り組むから成果が出ます。成果が出ると楽しくなるから、また頑張ることになります。お客様にも喜ばれるから、さらに頑張る。こういう脱チェーンストア理論を基に、客に喜んでもらえることをシンプルに考え、実行することで、好循環の仕組みを実現しているのです。



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