第2回 接客の類型から考える販売員の能力開発(2)
執筆:岩瀬 敦智(いわせ あつとも) 公開:
前回のコラムで、百貨店の販売員が実践する接客には、大きく分けて(1)マーケティング型接客、(2)コミュニケーション型接客、(3)セリング型接客、(4)レスポンス型接客があることを提起しました。今回は、マーケティング型接客の概要について説明します。
1.テナントのトップ販売員が実施している「マーケティング型接客」
私が百貨店時代の経験およびビジネススクールでの研究時に気づいたのは、都内デパートの各テナントの中で売り上げが高い販売員は、マーケティング型接客を中心に実施しているということです。
百貨店ではレジで販売員ごとの販売金額を分類しています。一般的にテナントでは、店長さんの売上高が高いのですが、多くの店長さんがマーケティング型接客を実践していたと記憶しています。
また、ビジネススクールでは「レディスアパレル販売員の行動分析」を研究しました。その際に、都内のいくつかのテナント内でトップクラスの売上高を稼ぎ出していると言われている販売員にヒアリングを実施しました。やり方やアプローチの違いはあるものの、皆さん、マーケティング型接客を実践していました。
2.価値主導型のマーケティング3.0
P.コトラーは、マーケティングは、1.0、2.0、3.0の三段階で進化を遂げてきたと述べています。
【P.コトラーのマーケティング1.0、2.0、3.0の比較】
出典:「コトラーのマーケティング3.0」P.コトラー・H.カルタジャヤ・I.セティアン著 朝日新聞出版
現在はマーケティング3.0の時代といわれます。マーケティング3.0は「価値主導のマーケティング」です。
消費者に価値を提供することが重要であるのは多くの方の共通認識だと思います。ところが、消費者がどのような価値に共感するかを正確に把握し、その価値を提供することは至難の業です。そのために、企業は、まずミッション、ビジョン、価値観を明確にして、自社のアイデンティティを明示することが必要です。
また提案するのは「このような効果がありますよ」という機能的価値や、「ほら、楽しいですよ」という感情的価値だけでなく、「こういう生き方がありますよ」という精神的な価値も含むことが特徴です。
そのために、消費者との交流を通して、協働で価値を作り上げていく仕組みが大切になる、これらがマーケティング3.0の要素から読み取れる思考であると考えます。
ここで言うマーケティング型接客も、このマーケティング3.0の考え方に準じます。最重要ポイントは、お客様に商品を提供するのではなく、価値を提供することにあります。
3.マーケティング型接客の7つの要素
お客様に価値を提供するマーケティング3.0を踏まえた、マーケティング型接客の主な要素は以下の通りです。各要素につきましては、本コラムで機会を改めて、掘り下げたいと思います。今回は、概要を述べます。
(1) 観察
お客様の表情、服装、態度、行動などを観察すること。
(2) 世間話
お客様とお店や商品の会話をするだけではなく、それ以外の世間話が盛り上がること。
(3) お客様のクローゼットの洋服を踏まえたコーディネート提案
お客様の持っている洋服に合わせてコーディネート提案をすること。
(4) 近隣のショップや、最近の流行に関する情報提供
自店の情報だけでなく、近隣店舗や流行の情報を提供すること。
(5) お客様との対話による悩み解決
お客様と対話を重ねることにより、購買へのハードルとなる悩みを解決すること。
(6) お客様が一歩踏み出す後押しをするクロージング
クロージングで、お客様が購入を決定する最後の一歩を踏み出せる環境を整えること。
(7) 認知的不協和を予防するコネクティング
認知的不協和を予防し、次回の来店につながるコネクティングを実施すること。
4.今回の要点
今回の要点をまとめると下記のとおりです。
(1)各テナントで売上げる金額が相対的に高い販売員は、マーケティング型接客を中心に実施している。
(2)マーケティング型接客の「マーケティング」は、マーケティング3.0の考え方に準じるため、価値を提供することを最重要としている。
(3)価値を提供するマーケティング型接客には、7つの要素がある。
前述のとおり、今後、マーケティング型接客の7つの要素については掘り下げて説明しますが、まずは4つの接客の類型の概要を先にお話ししたいと思います。
次回は、コミュニケーション型接客の概要について取り上げます。
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