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常識9.相見積をして安くて品質のいいところを選ぶことは本当に得か?

執筆:藤井 正隆(ふじい まさたか) 公開:



  複数の業者から見積を取る事(見積書を提出してもらうこと)を相見積(あいみつもり)と呼びます。「あいみつ」は取ったのか?

  相見積の目的は、発注・購入価格を抑えたい場合、似たような価格でも品質がより充実したものを選びたい場合、納期が短いものを選びたい場合などと様々です。

  特に、価格がある程度以上に大きな発注・購入を行うことになりそうな場合、一般に、相見積を行って比較・検討するのが常識です。これは見積書を一社から提出させるだけでは、比較対象が無く、業者が提出してきた見積がその分野の妥当な価格なのか、それとも業者があわよくば利益を多めに確保しようと価格を標準より高めに提示しているのか判断がつきにくいからです。

 

  複数の業者から提出させることによって、ようやく購入者側は業者の提示したものを相対的に比較検討するようになります。そのため、相見積を取るのが、世の中の常識ですが、全く取らない会社も思いつくだけで数社ありますが、1社紹介します。

 

  熊本県阿蘇地方に本社を置き、救急絆創膏で国内製造シェアトップ、世界的に見ても「バンドエイド」のジョンソン&ジョンソンに次ぐ2位の企業の阿蘇製薬株式会社です。

阿蘇薬品では、長年、「一夫一婦制」といった考え方で取引先との関係を築いてきています。この考え方は、二代目社長久木康氏が実践し、三代目現社長久木康裕氏に受け継がれていいます。

 

1.一夫一婦制(取引先との絆)

  一夫一婦制は、結婚において、一人の男性と一人の女性による組合せのみを認める社会制度です。一夫一婦制を営む動物は、配偶関係にある雌に対して保護や食物の供給を行い、雌の繁殖活動を助けることで、自らの遺伝子を持つ子孫をより多く残そうします。特定の雌に対して力を注ぐことにより、その雌との間に生まれた子孫をより確実に成長させようとするのです。

  取引先との関係において、一旦、何かのご縁で、取引を始めた場合、簡単にその取引を他に変えてしまわないで、取引先と一緒に成長していくことを目指す考え方です。

「他社から売り込みがありましたが、こちらは安いですよ」

「あそこは値上げをしてきました。他社から見積もりを取りましょう」

といった提案が社員からある度に、康は、同じ言葉を繰り返しました。

「お前達は血も涙もないのか!ヨソに切り替えて、ウチに来ている営業担当がクビにでもなったらどうする。高いと言うなら、はっきりそう言ってやれ。製品に問題があるなら指導してやれ。それが人間の付き合いというものだ。」

また、康の実母である久木雅代会長(当時)は、営業社員が突然の雨でスーツがビショ濡れになれば、着替えを用意する、打ち合わせの間に、その営業社員が次の会社に訪問できるようにスーツを乾かしてアイロンを掛ける、工場の敷地内で採れた野菜を土産に持たせる等、阿蘇製薬を、特別なお得意様と感じさせる対応をしたのです。

  もちろん、取引先との関係は、決して馴れ合いではなく、むしろ、厳しいものです。価格が安いだけで取引先を変えることはしませんが、製品開発や改良に対する自分達の問題意識について、真摯に取り組んでいけるかどうかが、「ともに歩む」真のパートナーとして不可欠な条件なのです。

 

2.自助自立

  阿蘇製薬は、ナショナルブランド企業ではなく、あえて供給だけに専念するプライベートブランド企業としての立場をとり、商品開発に力を入れてきました。

そして、商品開発と製造に特化したことによる高い商品力を武器に、ダイエーやイトーヨーカ堂等のGMS、ドラッグストアーチェーン、製薬会社に対し次々と販路を開拓し、供給を開始していったのです。

複数社と取引・販路の確保し、1社の大手取引先への依存をする事を解消することを通して、仕事を出す側ともらう側といった上下ではなく、対等の立場で、あくまでもパートナーといった立ち位置に拘りました。

そのため、いくら相手が大手であったとしても、対等でないと感じると、阿蘇製薬の方から、取引の中止を申し出ることもありました。日東電工が間にはいってのダイエーとの初めてのプライベートブランドの発売日近くで、検品を巡っての対応から、取引を白紙に戻そうとしたのも、自助自立に拘ったからです。

創業精神を守り続け、自助自立を貫徹するからこそ、真を結ぶことができるといった思いがあるからでしょう。

 

3.切磋琢磨を越えた優越的地位の乱用

  優越的地位の乱用の件数は、中小企業庁の調査では、年々増え続けています。ヤマダ電機は、2005年11月から延べ約16万6千人の人を、店舗の新装、改装時に取引会社の従業員を派遣させて仕事をさせていたために、独占禁止法の優越的な地位乱用によって公正取引委員会から、再発防止策を講じるよう排除措置命令を受けました。また、ニトリは、家具、インテリアの下請け71社に対して、総額約3億3000万円の代金減額を行い、下請法違反で再発防止策や下請法の徹底を勧告されるなど、弱い立場にある中小企業に対する法律をも軽視した形振り構わない経営姿勢には、嫌悪感を覚えます。

  以前、某家電メーカーの部長が、某家電量販店の売出しに、遅刻をしたことを責められ、自分の息子程の年齢の店長に、土下座をさせられたと聞いて「まさか!」と驚いたことを覚えています。

「会社としての取引は致し方ないが、一消費者として、自分だけでなく家族にも絶対に、この家電店では買わせない」と怒りを露わにされていましたが、人間として当然の感情でしょう。

  その後、「優越的地位の濫用」は、平成21年独禁法改正により新たに課徴金が課される対象になり、公正取引委員会は、スーパーの山陽マルナカに対し、2億2216万円の初の課徴金納付命令を出しました。このように、国としても是正を図ってはいますが、「表に出ない、出せない」ケースもまだまだあるでしょう。

自動車メーカーについても見てみましょう。

「日産自動車の系列システムは機能していない」

日産自動車(以下日産)が危機に落ちいった際、立て直しに入ったカルロスゴーンが発した言葉であり、リバイバルプランの中で、従来からあった日産の系列は、大幅に見直された。

  系列とは、長期的継続的な取引や固定的な経路であり、日本企業に特有の企業間関係です。主な形態としては,①部品調達に関わる生産系列 ②完成品の販売を行う流通系列 ③資金融通を融資系列 がありますが、まず、コストカッターと言われたゴーンが着手したのは、部品調達における系列の見直しです。

  系列の見直しについては賛否両論があります。自動車業界では、親会社と下請け関係で、支配的な組立企業と、そこに部品を供給する下請け企業とのピラミッド型で形成されています。系列企業側は安定した取引先ができ、資金や技術供与などの援助を受けることも可能である反面、取引の排他性や下請け企業に対する「しわ寄せ」が問題視されています。

系列の是非は、業種により異なると思います。日産は、ゴーンの改革により系列に拘らない調達を目指しましたが、元の系列に戻りつつある現実を考えると、自動車のように安全が重要である業種では、品質の観点からは、系列は、しっかりと運営すれば機能したシステムだと思います。

  2つの例から見れば、「大企業は、けしからん!」といった気持ちになる方が多いと思います。しかし、中小企業にも問題がないわけではありません。

中小企業であっても、他社に作れない程の技術を持っていたら、大企業であっても一方的な要求はできないでしょう。さらに、大企業との取引比率を一定に抑えて依存度を低くする、新事業として別の柱を計画的につくる等、様々な対応策があり、実際、実践している企業も少なくないからです。

 

4.相見積で安く調達することが本当に安いのか?

 カルロスゴーンが日本に始めてきたとき、真っ先に立ち寄ったと言われるホンダカーズ中央 神奈川の相澤会長も相見積は取りません。理由を相澤会長に聞くと、

「長年、付きあってきた取引先は、そんなに無茶なことは言わない。適正な利益以上のことはしない。むしろ、他に浮気をしないで取引していると、いざという時、真っ先に対応してくれる。もし、複数の会社で安い方にといった対応をしていたら、後回しになる。また、比較して検討することも手間暇がかかり、実質状のコストだから・・」

 

  以前、正社員は、24時間365日、会社のことを考えてくれる社員。パート社員は、時間給で雇われている時間だけ会社のことを考える社員。非正社員の給料が正社員の半分だとしても、必ずしも正社員の給料が高いとは言えないと、コラムでも書いたことがあります。

 

  全く同じで、長年、継続的に取引をしている会社は、真っ先に我社のことを優先して、親身に考えてくれる会社。都度、相見積で選んでいるような会社は、条件がいいところと、その時々で、取引をするところ。本当にどちらの会社が、トータルで考えたら、我社の利益になっているのかわからない。むしろ、多少、高くても我社のことを優先して一生懸命対応してくれる会社が大きな利益をもたらしてくれることが多いのではないかと思います。



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