第11回 「外的キャリア」と「内的キャリア」
執筆:青木 仁美(あおき ひとみ) 公開:
前回は自分にとって大切なキーワードを見つけ、より満足したキャリアを歩むための方法について書きました。大切にしている要素と今の仕事に共通点が多いほど、満足度も高まるというお話でした。
今回は、キャリアの満足度について、少し違った視点から見てみましょう。
キャリアの2つの側面
キャリアには「外的キャリア」と「内的キャリア」という考え方があります。外的キャリアとは、職業、地位、資格、年収など、外から見たキャリアのことです。
内的キャリアとは働きがいや生きがい、働くこと、生きることに関する価値観のことです。
内的キャリアはその仕事に満足しているか、やりがいがあるか、など本人にしかわからない基準で判断されます。
やりがいや満足は外的キャリアだけでは得られません。
外的キャリアの成功と本人の満足度は必ずしも一致しないという調査結果があります。
人がうらやむキャリアを歩んでいても、本人がまったく幸せでないということもあり得るのです。
個人差はありますが、外的キャリアよりも、内的キャリアのほうが本人の満足度への影響が大きいと言われています。外的キャリアを追い求めるだけでなく、内的キャリアを充実させることが幸せなキャリアにつながるようです。
それでは外的キャリアにこだわらず、幸せな内的キャリアを手に入れた方の事例をご紹介しましょう。
山本さん(仮名)の場合
山本さんは理系の大学院を出て、研究開発職につきたいと思い化粧品会社に就職をしました。最初の3年は研究部門で基本的な知識や自社の研究内容を学び、さあこれから本格的に専門知識を高め研究を進めようと思った矢先、営業職に異動の辞令を受け取りました。
山本さんはずっと研究開発という仕事にあこがれていて、研究員という自分のアイデンティティに誇りを持っていました。ですので、いきなり営業と言われても納得できず、転職しようかとも考えました。
しかし、会社を辞める決心もつかず、思い直して営業の仕事をやってみることにしました。すると今までに身につけた化学や研究の知識が役に立ち、説明が専門的でわかりやすいと顧客から信頼されるようになりました。
他の営業からも頼られ、周りの役に立っているということに大きなやりがいが感じられます。そして数年後にはその実績が認められ、新商品開発の研究開発プロジェクトのリーダーに抜擢されました。
自分のキャリアを振り返り、山本さんは次のように話します。
初めは研究職しか頭になくて、会社をやめようかと思ったこともありました。研究員として商品開発をすることが私の夢でしたから。
でもあのときやめなくてよかったです。私が本当にやりたかったのは、顧客の声をよく聞いて商品開発に活かすことだと気づきました。
もちろん研究職でもそれはできたかもしれませんが、直接顧客と接することで肌で感じられることがたくさんありました。営業職にならなかったら生まれなかったアイデアもあるでしょう。自分にこのような役割があるとは数年前には思いもしませんでした。毎日忙しいですが、今はとてもやりがいを感じています。
外的キャリアから内的キャリアへ
つまり、あこがれの研究開発職という「外的キャリア」は手に入れることができませんでしたが、それ以上のやりがいや満足という「内的キャリア」を充実させることができたのです。
そして、本当にやりたかったことにも気づきました。本当は「研究員」という肩書きがほしかったのではなく、お客様の声を聞いてより良い商品を開発するということを望んでいたのですね。
さらに、山本さんは内的キャリアの充実によってやりがいや満足を感じながら働いた結果、新商品開発プロジェクトのリーダーという外的キャリアも手にすることができたのです。
納得できない異動というマイナスの出来事を、見事にプラスに働かせた良い事例ですね。
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