常識10.企業は、事業計画を立て売上利益目標を運営する
執筆:藤井 正隆(ふじい まさたか) 公開:
本コラムの最初の説明で、伊那食品工業が目標と設定していないことを例示しました。今日は、事業計画を立てて売上や利益目標を立てて運営するといったことが当り前の常識として行われています。
伊那食品工業は、空気感が違うといったことが言われます。確かに、毎日、社員により整備されたかんてんぱぱガーデンを始め、傘の方向が全て同一方向に揃えられた傘さし、
水滴一つ落ちていないトイレ、毎日、ピッカピッカに掃除されたオフィスといった光景に加え、すれ違う度に、明るい笑顔で挨拶される社員と接すると、確かに、一般の会社との空気感の違いを感じます。
空気感その他は、もちろん重要ですが、目標が無くて、本当に、企業運営ができるのでしょうか?私なりに対照的な会社と比較して整理してみたいと思います。
伊那食品工業は、前年度より少し良ければいい。売上だけでなく、イメージが良くなる。環境が良くなる・・も成長であるとしています。
一方、武蔵境自動車教習所のマネジメントは、徹底した数字を意識したものです。
もちろん、どちらの経営が正しいとは言えません。しかし、明らかに違いがあることは間違いありません。
武蔵境自動車教習所は、経営管理の仕組みとして、お客様の紹介の仕組み、教官も教習生に紹介をお願いして、実際に紹介件数をお互い競い合っています。そして、財務諸表が全てオープンであり、どの位、紹介客があると、どの位、売上が上がり、利益が上がるかが全てわかります。
一方、伊那食品工業は、目標さえない会社です。
しかし、次々と寒天の用途開発を行い、新しい商品を世に送り出しています。
この運営の違いは、一つは、製造業かサービス業かといった違いがあります。
この前提を考えず、単に、伊那食品工業に訪問して、その考え方に感動し、伊那食品工業は目標がないから、武蔵境自動車教習所が、明日から目標を止めてしまったら、あっという間に業績を落とす可能性があります。
伊那食品工業では、既存の製品があり、それが、市場に流れていっています。この既存の製品がキャッシュを生んでくれています。その間に新しい製品を開発してといった余裕があります。典型的な研究開発+製造業+販売業であり、日本の製造業が単一機能なのに対して、複数の機能を持ち、取引先にコントロールされにくい基盤を持っています。
一方、武蔵境自動車教習所には、リピートがありません。1回免許を取ったら、2回といったことは事故か交通違反で、免許が無くなる以外ありません。そのため、徹底的に紹介に拘わる数字管理になるのです。
例えば、建設会社はどうでしょうか?
建設会社は典型的な受注ビジネスです。今年、ビルを建てたオーナーが次々とビルを建て続けるといったことは、通常はありません。
建設会社が典型的な受注ビジネスといった本質を考えると、数字にこだわる武蔵境自動車教習所型の方を選択しなければならないのは当然です。
先ずは、既存企業のリピート、紹介、新規開拓です。この精度が上がらない限り、企業として成り立ちません。
もし、伊那食品工業のように、目標を設定しないといった経営を実現したいと思うならば、ある分野に絞り込みブランド化して、お客様に方からご依頼が絶えない千客万来の仕組みをつくる必要があります。
一方、逆に、伊那食品工業の研究開発型の企業が、売上・利益を徹底した管理をしたら、新商品が生まれないかもしれません。一方、しっかり注力しなければならないのは、その研究テーマの市場性です。食品の新商品開発であれば、比較的短いものもあるでしょう。
しかし、薬の開発などは、基礎研究から15年といった月日を要します。どこで、見切りをするかといったことは非常に難しく、その判断は非常に重要です。
いずれにしても、空気感がいいといったことは、いい会社の特徴ですので、そうした会社になっていくことは全く否定の余地がありません。
しかし、「衣食足りて礼節を知る」ではありませんが、事業の性質を踏まえた企業経営の永続を担保した経営管理が重要だと思います。
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