第14回 キャリア形成からみた「社員幸福度」
執筆:青木 仁美(あおき ひとみ) 公開:
社員満足度調査と社員幸福度調査の違い
当社では「社員幸福度調査」というアンケート調査を実施しています。
従来は「社員満足度調査」が主流でしたので、社員幸福度調査は社員満足度調査と何が違いますか、という質問をよくいただきます。
そこで今回はキャリア形成の観点から、社員満足度と社員幸福度の違いについてお話ししたいと思います。
社員満足度調査では、職場の環境や給与などの条件面、仕事のやりやすさなど、どれだけ満足しているか、言い換えるとどの程度不満を感じているかにフォーカスすることになります。
職場の環境や福利厚生はできるだけ整っているほうがいいし、お給料も高ければ高いほどいい、と考える人が多いと思います。
しかし、そういう要因は低いと不満になり、ある程度高まると満足度も高まりますが、一定のレベルで頭打ちになります。
満足には際限がないので、年収300万円の人が「年収500万円になりたい!」と思っていたとして、いざ500万円になると、一瞬は満足するかもしれませんが、しばらくすると「もっと多く!600万円になりたい!」と思います。
その後も800万円、1000万円、と達成するたびに、満足するのは一瞬でさらに多くを求めてしまいます。上には上がいるからです。
やっと年収1,000万円になれた、と喜んでも、同期が1,200万円もらっていると聞くと、これでは満足できない、とさらに多くを望むでしょう。
満足を追求しても終わりがないのです。
なぜならば、「満足」は「足りないもの」に焦点を当てているからです。そして、自分のなかの「不足感」を解消しないかぎり、どんな状態になっても満足することはできません。
自分のキャリアを考える面でも、ただ「もっと出世したい」「もっと給料を上げたい」など「もっと欲しい」という気持ちが強いと幸せなキャリアにはなりにくいでしょう。
一方、幸福度調査では、仕事のやりがいや仕事を通じた自己実現、自分が役に立てている感覚など、満足を超えた「働く幸せ」に注目し、幸福度を測定しています。
実際にアンケート調査してみると、この2つは連動していることも多く、職場の環境や人間関係が満足度と幸福度の両方に影響することがわかります。
満足度と幸福度が逆転するとき
しかし、満足度は高いけれど幸福度が低いことや、満足度は低いけれど幸福度が高いこともありえます。
原因としてはいくつかあり、その会社の状況などによって違ってきますが、主な理由としては以下のようなものがあります。
満足度高・幸福度低
- 福利厚生や待遇面で恵まれていて、職場に満足はしているけれど、仕事にやりがいや楽しみを見いだせず、仕事を通じての幸福感を感じにくい。
- 会社や仕事に対してある種の諦めを感じていて、「こんなものだろう」という気持ちがあるので満足度は高めだが、仕事への情熱や会社への所属意識が低く、幸福感を感じにくい。
満足度低・幸福度高
- 条件や環境には満足できていないけれど、好きな業界で働いているので日々の業務が楽しく幸福度は高い。
- 向上心が強いので現状に満足することができないが、仕事にやりがいやチャレンジの気持ちを持っていて、幸福感がある。
満足度が低くても幸福度が高い人の特徴として、やる気やモチベーションの源泉を自分の内側に持っているというものがあります。
心理学で内発的動機付けと呼ばれる考え方です。
また、以前外的キャリアと内的キャリアのお話をしましたが、幸福度が高い人は内的キャリアが充実しているといえるでしょう。
社員のキャリア開発をすすめる企業にとってもこういう分析はとても重要です。
いくら満足度を高める対策をしても、社員本人がやる気にならなければあまり意味がありません。
社員の内発的動機付けや内的キャリアを開発することで、社員ひとりひとりの幸福度が高まり、結果としてパフォーマンスも向上します。
社員の幸福度と企業業績の関係にはさまざまな研究があり、その多くで幸福度が高いほど業績もよいという結果が出ています。
環境や条件を整えることも大切ですが、それに加えて、自らやる気の火を灯し続けられる真に幸せな社員を増やしていきたいですね。
→ コラム一覧に戻る